2014年5月10日土曜日

「バルテュス展」と仲間


一昨日5月8日東京・上野の東京都美術館で開かれている「バルテュス展」を見た。

大学時代の同好会の仲間8人と一緒だった。
午前10時に美術館の入口で集まる約束だった。

入場券は、同好会仲間の夏目典子女史が手配してくれた。
女史は生前のバルュスと交遊があり、でも家族とは親しくしているという。
バルュス関係の本を何冊か書いていた。


夏目女史の著書
「バルテュス 猫とアトリエ」

こちらも女史作
「バルテュスの優雅な生活」

女史はこの他にも芸術関係の本を何冊か出している。


「フランスとっておき芸術と出会う場所」
~創造性と愛を与えたミューズたち~

「パリ近郊 芸術家の館」
~フランス自由行動の旅案内 文学・美術・音楽~

「猫をさがして」
~パリ20区芸術散歩~

話は「バルテュス展」だ。
富山から駆けつけた友人も10分遅れて到着した。
さて鑑賞するとしよう。

バルテュスは、ピカソをして「20世紀最後の巨匠」と言わしめた画家だ。
絵画展の副題も、「称賛と誤解だらけの、20世紀最後の巨匠」となっている。
世界の大きな美術館の所蔵作品から個人蔵の作品までを集めた大回顧展らしい。
夏目女史とも親交の深いバルテュスの細君節子夫人の協力の賜物だそうだ。
女史が皆を呼び集めるのも納得である。



東京都美術館 「バルテュス展」

ポスターは有名なあの子
「夢見るテレーズ」だ

パンフレットーと夏目女史の著書

作品の展示は年代別に構成されていた。
第1章 初期
第2章 バルテュスの神秘
第3章 シャシー 田舎の日々
第4章 ローマとロシニエール
間にアトリエの再現や愛用品の展示などがあった。

第1章 初期


「ミツ」 1921年
8~11歳にかけて描いた40枚の絵
物語は、拾った子猫「ミツ」との出会いから
突然の別れまでを描いている
1921年(バルテュス13歳)に出版されている







8~11歳と4年にわたって描いているが、画面構成や場面に統一感がある
さすが子供の頃からの絵や物語の創造性がうかがえる

「聖木の礼拝」 1926年
(ピエロ・デッラ・フランチェスカ<聖十字架伝>にもとづく)
ピエロは初期イタリアルネサンスの画家でバルテュスはピエロを生涯の範とした
1452~1458年にアレッツォの聖フランチェスカ聖堂に描かれた聖十字架伝の壁画
イタリア修行でそれを観たバルテュスは感動し、幾つかの場面の部分を模写している
これは「聖木の礼拝:ソロモン王とシバの女王の会見」の左半分を描いている

「十字架の称揚」 1926年
(ピエロ・デッラ・フランチェスカ<聖十字架伝>にもとづく)
これは「皇帝ヘラクリウスのエルサレム入城と聖十字架の賞揚」の部分
エルサレムの人々に迎え入れられる皇帝の後ろの5人だけを切り取って描いている

「オデオン広場」 1928年
オデオン座の前のカフェの給仕や荷を運ぶ大人を描いている

「リュクサンブール公園」 1929年
1925年頃からリュクサンブール公園を数多く描いている
子供達などのいる作品に比べて静かである

「空中ごまで遊ぶ少女」 1930年
この作品も公園での一場面
日本初公開ということだ

第2章 バルテュスの神秘


「乗馬服を着た少女」 1932年(1982年加筆)
1932年当初はもっと硬い表情だったらしい

「鏡の中のアリス」 1933年
最初の個展で話題になった作品の一つ
光がなく黒目が極端に小さい眼と椅子の写実感の組合せが印象的

「キャシーの化粧」 1933年
時が止まっているかのよう
裸体のキャシーは発光したマネキン人形のようだ
「嵐が丘」の挿絵(下の絵)の一つの油彩画とされるが、本人は否定
確かに構図は同じようだが、別の意図があるように感じる

こちらが「嵐が丘」の挿絵
「じゃ、どうしてそんな絹の服なんか着てるんだい?」のシーン

「猫たちの王」 1935年
バルティスの肖像画らしい、27歳
「ミツ」以来の猫の登場、大きい
表情がピカソの描く道化師のよう
バルティスは他に2枚の自画像を描いている

「自画像」 1924年
16歳の頃の素描

<参考>
「自画像」 1940年 32歳の作品

<参考>
「自画像」 1949年 41歳の作品

「山(夏)のための習作」 1935年
この作品は2012年12月に「メトロポリタン美術館展」からの再会

<参考>
こちらが「山(夏)」 1937年 3650×2480の特大サイズ
長閑さが消えて何やら不思議な感じだ
光の陰影の大きな切り分けや人物の在り様がシャープに

「兄弟」 1936年
テレーズ・ブランシャールと弟を描いている
このテレーズと弟は昭和の日本の漫画にありそうな雰囲気

<参考>
「ブランシャール家の子どもたち」 1937年
こちらも「兄弟」と同じモデル
この作品はピカソが購入し愛した1枚
27歳年上のピカソはバルテュスを高く評価している

「夢見るテレーズ」 1938年
看板となっている作品
同じ構図の前年作(下の絵)と比べると
表情、光の感じ、猫の状況、、と仕上がりが際立つ

<参考>
「若い娘と猫」 1937年
「夢見るテレーズ」と同じ構図ながら、
少女も猫もモデル感というか描かれ感があって硬い

「ピエール・マティスの肖像」 1938年
モデルはNYの画廊主、アンリ・マティスの息子
バルテュスを初めて米国に紹介した人物

「崖」 1938年
タッチが「山(夏)のための習作」のよう、未完だとか、、
しかし自然の(構図の)ダイナミックさがよく出ている

「おやつの時間」 1940年
静物画のような絵に黄色い服の少女が印象的
カーテンがつくる背景に人物が際立っている
カラヴァッジョの「果物籠」を参考にしたとか

「牛のいる風景」 1941~1942年
「崖」に続く風景画
自然の1枚に厳かさとスケール感が増している

「眠る少女」 1943年
ぐっすり寝入っている感じが出ている

「12歳のマリア・ヴォルコンスカ王女」 1945年
背景の風景も、華美なドレスや装飾品もない
幼いながら毅然と輝き、宗教画のような趣もある

「美しい日々」 1944~1946年
こちらも有名な作品である
まったりとする少女と、暖炉の燃える火や薪を足す男の動き、
その対比が面白い
バルテュスの光は陽光だけではない

「猫と少女」 1945年
薄いピンク色の寝具に少女の幼さが出ている
比して猫は老獪な感じ

「ジャクリーヌ・マティスの肖像」 1947年
前出のピエール・マティスの娘
横顔が凛としている

「部屋」 1947~1948年
これからお風呂にでも入るのだろうか
白く輝く立ち姿と肩にかけた布が画面から飛び出す
赤い靴下から足先が背景に馴染んでいき浮遊感を出しているよう

「ジョルジェットの化粧」 1948~1949年
背景に馴染んだ人物と光に照らされた主人公の描かれ方が面白い

「金魚」 1948年
人物は金魚を見ているようで、何か違うものを見ているかのよう
対して猫は薄っすらと笑いこちらをしっかり見据えている

「決して来ない時」 1949年
想像力をかきたてる作品
窓の在りよう、天上の高さに西洋を感じるが
猫はスフィンクス風

「猫と裸婦」 1948~1950年
「決して来ない時」と同じような構図
被写体をクローズアップして場面感が高まっている

「地中海の猫」 1949年
夏目女史の本の表紙にもなっている絵
オデオン広場にあった海鮮レストランに飾られた
レストランの常連客にはコクトーやヘミングウェイもいたとか
海から虹に乗って食卓へ直送!という新鮮さのアピールも面白い

「窓、クール・ド・ロアン」 1951年
人の気配を感じてしまうから面白い
向こうの建物の塗りつぶされた窓が引き締めている



第3章 シャシー 田舎の日々


「横顔のコレット」 1954年
人物画というよりも光の絵
モデルはシャシーの石工の娘

「昼顔Ⅱ」 1955年
色彩を楽しんでいるような妙な情感がある

「白い部屋着の少女」 1955年
少し離れてみると印象的な作品
白い衣服の位置と分量が人体を分割しながら
人物に落ち着きと毅然とした印象をつくっている

<参考>
ピカソ 「白い服の女」 1923年
バルテュスの「白い部屋着の少女」と対面させたら面白そうだ

「目ざめⅠ」 1955年
画面からはみだした足先もあってか、
伸びやかな何かの「誕生」を感じさせる
カラヴァッジョの「勝ち誇るアモール」から着想を得たらしい

「樹のある大きな風景(シャシー農家の中庭)」 1960年
セザンヌのレスタックの風景画を思わせる色調
時が止まったかのような風景の中に、
手前の後姿の人物が生活感(時のリズム)をつくっている

<参考>
「コメルス・サン・タンドレの小路」 1952~1954年
バルテュスの超大作(2940×3300)
ここにも後姿の男性がいて画面を奥へと引っ張っている


第4章 ローマとロシニエール


「トランプ遊びをする人々」 1966~1973年
こちらに向けている顔、その表情は歌舞伎の見得からの着想らしい
確かに目と目、そして鼻をつなげて際立った顔は独特だ
奥行きのなさ、背景しかない画面の上半分が場面感をつくっているよう

「朱色の机と日本の女」 1967~1976年
モデルは節子夫人
平たく、低く場面が構成されている
白い人物の形と赤が効いている

「読書するカティア」 1968~1976年
やはり奥行きのない画面構成だが舞台のようではない
表現が柔らかく自然な中に少女の横に向け気味な顔と横目が
鑑賞者の推測を誘う

「モンテカルヴェッロの風景Ⅱ」 1994~1995年
画面の中で細くうねる川の流れが一際輝いている

バルテュスはポンペイの壁画を見て光と影を研究したそうだ。
なるほど、光を陽光だけでなく、発光したかのような人物表現、煌々と燃える暖炉の火、くねる水の
生命感、人物の表情やしぐさで陰りをつくったりと、様々な光と影を描き出していた。
ポンペイの壁画には春画も多い。
春画は悪魔除けでもあったようだ。
バルテュスが描いた意図の中にはエロスだけでない何かがあるのかもしれない。
(ポンペイの旅は「神々の国ギリシャ そしてイタリア再び⑧~ポンペイ~」に記載)

2時間ほど鑑賞し、二次会の昼食場所に向かった。
昼食は美術館1階にあるレストラン「アイボリ」を予約してあった。
フランス料理のランチコースで4千円だ。


この大学時代の同好会の集まりは、もう20年余り続いている。
は温泉地に集まっていた。
年齢を重ねるにつれて昼食会に変わってきた。
参加メンバーも当初は20人余りだったが、この日は8人だ。

前回まで何事もなく元気だった先輩は、
息子さんの認知症で参加出来ないと電話を頂いた。
一流企業に勤め、アメリカ駐在で現地社長をしたやり手は、リタイア後に鬱病になった。
体調に好不調の波があって今回は参加できなかった。
来し方の中で亡くなった人もいる。
長い付き合いの中では皆にいろいろなことが起こる。

今回富山から駆けつけた友人は、奥さんの体調が悪く早々に日帰りした。
友人を東京駅まで送った。
東京駅のデパート地下食品売り場で買い物があるという。
奥さんとの夕食に買って帰るのだと。
サバ寿司だった。
美味しそうだったので我が家にも同じものを買って夕食とした。

別れ際に「次回は北陸新幹線が開通するから富山で開くのもいいね」と話した。
楽しみである。

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