2013年6月1日土曜日

「大神社展」と「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」~後編~


~前編~で「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」で観た「ヨハネ」が気になった。
「洗礼者聖ヨハネ」と「福音書記者ヨハネ」の絵があり、どれも女性的に描かれていた。
ヨハネの描かれ方に興味を持ち~後編~として取り上げてみようと思う。

「ヨハネ(Johannes)」はラテン語。
イタリア語では「ジョヴァンニ(Giovanni)」
英語では「ジョン(John)」
フランス語では「ジャン(Jean)」
ドイツ語では「ヨハネス(Johannes)」
スペイン語では「フアン(Juan)」
ロシア語では「イヴァン(Ivan)」
ギリシャ語では「イオアンニス(Ιωάννης)」。

キリスト教世界の「ヨハネ」は1人ではない。
分け方には諸説あるようだが、細かく分けると4人という説がある。
①「洗礼者聖ヨハネ」、②「使徒ヨハネ」、③「福音書記者ヨハネ」、④「黙示録のヨハネ」。
①洗礼者聖ヨハネと他は完全に別人である。
②使徒、③福音書記者、④黙示録著者、は同一だとか別人だとか。
画としての描かれ方では③と④の区別はよくわからない。
ヨハネの黙示録は画題として取り上げられてきており、著者ヨハネ自身を描くものではないようだ。
一つずつ見ていく。

①キリストに洗礼を施した「洗礼者聖ヨハネ」。
 キリストの血縁者でキリストよりも年長者である。
 描かれ方の特徴は十字の杖を持ち、毛皮をまとっている。
 聖母子像とともに描かれることも多い。
 その姿は幼子であったり、少年から成人と様々だ。

 指を差している姿も多い。
 聖ヨハネの場合は救世主キリストを指しているということだが謎も多い。

偉大な画家の洗礼者聖ヨハネを見比べてみると面白い。
年齢、髪型や表情が実に様々だ。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 「洗礼者聖ヨハネ」
表情は女性のよう、身体は少々男性的

レオナルド・ダ・ヴィンチ 「岩窟の聖母」
ロンドン ナショナルギャラリー
聖母の右手が幼子の聖ヨハネのように思えるが
指を差しているのはもう一方の幼子
謎だ

こちらはルーヴルの「岩窟の聖母」
こちらの方が先に描かれたらしい
聖母の手にあるのがキリスト
指を差されていることからもわかる
指を差しているのが幼子聖ヨハネ

ベルナルディーノ・ルイーニ 「聖家族と洗礼者聖ヨハネ」
右の幼子と髭の男性がヨハネ

ボッティチェリ 「洗礼者聖ヨハネ」
このヨハネはヨハネらしい

カラヴァッジョ 「洗礼者聖ヨハネ」
精悍な青年風、青年期の憂いがある

ムリーリョ 「荒野の洗礼者聖ヨハネ」
わかりやすいヨハネだ

エルコレ・デ・ロベルディ 「洗礼者聖ヨハネ」
ガリガリに描かれている

ラファエロ 「砂漠の洗礼者聖ヨハネ」
麗しき美青年 指を差している

ジョット 「キリストの洗礼」
中央が洗礼を受けるキリスト
キリストに手を携えているのが聖ヨハネ

聖母子とともに描かれると、、、。

ジョヴァンニ・ベッリーニ 「聖母子と洗礼者聖ヨハネ、聖女」
このヨハネもわかりやすい

ラファエロ 「ベルヴェデーレの聖母」
幼子聖ヨハネが左に描かれている
キリストよりも頭を低く描くらしい

ラファエロ 「王座の聖母子と2聖人」(アンシディの祭壇画)
洗礼者聖ヨハネが救世主のキリストを指している
このヨハネもわかりやすいが、空をみている表情が面白い

ボッティチェリ 「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」
ヨハネが少年として描かれている

ボッティチェリ
「聖母子、洗礼者聖ヨハネ、大天使ミカエルとガブリエル」
美しい女性のように描かれている
年のころは10代のように見える

ボッティチェリ 「聖バルナバの祭壇画」
一番手前の痩せこけた姿が洗礼者聖ヨハネ
ボッティチェリのヨハネもだんだん年をとってきた

ボッティチェリ 習作「洗礼者聖ヨハネ」
上の聖バルナバの祭壇画のための下準備作

再びラファエロ 「フォリーニョの聖母」
こちらはかなりワイルドに描かれている
ここでもヨハネは指を差している

ルーベンス 「聖家族と聖エリザベス、洗礼者ヨハネ」
幼子で毛皮とともに抱かれている

次は、
②キリストの12使徒の1人「使徒ヨハネ」。
 弟子のうち最も若く、キリストに愛された使徒として美しく描かれることが多い。
 赤い布をまとい、手には蛇の入ったカップ(杯)を持っている。
 蛇はヨハネが毒殺の標的になったことを象徴しているそうだ。
 福音書記者ヨハネと同一視して描かれた絵も多い。

ジャンピエトリーノ 「福音書記者ヨハネ」とある
使徒ヨハネと明確な区分はないようだ
ふっくらとした女性のよう

ルーベンス 「福音書記者ヨハネ」
こちらも女性かと思ってしまう

エル・グレコ 「使徒ヨハネ」
蛇の杯を持っている
年少の使徒らしい若さが出ている

デューラー 「聖ヨハネと聖ペテロ」
「四人の使徒」より
こちらは壮年のヨハネか

再びエル・グレコ 「福音書記者ヨハネと聖フランチェスコ」
やはり蛇の杯を持ち、色白の美麗な青年に描かれている
何気に指を差している

続いては②と同一に捉えられている(ような)、
③「福音書記者ヨハネ」。
  シンボルの鷲とともに描かれることが多い。
  4人の福音書記者の1人である。
  他の3人は(括弧内はシンボル)マルコ(獅子)、マタイ(人・天使)、ルカ(雄牛)。
  「パトモス島の、、」と冠した作品が多い。 
  ヨハネはパトモス島に幽閉され、その時に④の黙示録を記したとされる。
  福音書は幽閉後の老齢期に記したようだ。
  ③福音書記者と④黙示録著者も混同されているようである。

ベラスケス 「パトモス島の福音書記者ヨハネ」
美しい、とはいえない風情
右横に鷲が描かれている
左上に描かれているのは黙示録の「太陽の女」では?

ピエール・ラストマン 「パトモス島の福音書記者ヨハネ」
ベラスケスとほぼ同じような構図
ヨハネが見ているのはやはり黙示録の「太陽の女」の場面か


ジャン・フーケ 「パトモス島の聖ヨハネ」
こちらは長髪で使徒ヨハネを思わせる
木の大きさや遠近感に違和感が、、

ドナテッロによる彫像「福音書記者聖ヨハネ」
髭をたたえた風格のある姿

最後に
④「黙示録のヨハネ」。
  黙示録の著者ヨハネとして自身が画題になることは少ないが、先のパトモス島の福音書記者
  は黙示録を記しているヨハネとも考えられる。
  ヨハネの黙示録を題材に描いた大作の中に登場していることもある。

ボッティチェリ 「神秘の降誕」
ヨハネの黙示録11~12章を描いている

ミケランジェロの大作 「最後の審判」
中央キリストの右手側裸体の大きな男性がヨハネらしい

ムリーリョ 「無原罪の御宿り」
聖母マリアの姿は黙示録の「太陽の女」の記述を基にしている
「1人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、
頭には12の星の冠をかぶっていた」
三日月はギリシャ神話の処女伸アルテミスのシンボル
キリスト教に多神教的要素が入っているようだ

「黙示録のヨハネ」として、デューラーの黙示録木版画連作を一気に紹介して終わりにする。
黙示録は、現在の世界秩序の終末と次の新しい世界秩序について神がヨハネに示したとされる。
デューラーは木版画の黙示録の中にヨハネを「その目撃者」として何度も登場させている。

「煮えたぎる油の中で殉教するヨハネ」

「7つの燭台をみるヨハネ」

「神の御座の前のヨハネと24人の長老」

「4人の騎士」

「第5、第6の封印を切る」

「風をとめる4人の天使」

「ラッパを吹く7人の天使」

「ユーフラテス河畔の4人の天使」「天使の戦い」

「書物を食べるヨハネ」

「太陽の女と7頭の竜」

「大天使ミカエルと竜の戦い」

「海から上る獣と子羊の角を持つ獣」

「子羊の前に選ばれしものたち」

「バビロンの淫婦」

「深遠の鍵を持つ天使とヨハネに新しいエルサレムを示す天使」



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